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冬のクワガタ(3) [空想中野日記]

3.居酒屋にて その2

「えっ、そうだったんですか」つい口を出してしまった。
二人と宮さんがしゃべっている。他に客はいない。
「そうよ。知らなかった?宮さん言わなかったの?」
ゆかりさんが一つだけ残っていた山かけのまぐろを口に放り込む。
「そんなこと言いませんよぉ」
宮さんは、仕事が一息ついてから飲み始めていたビールをごくりと飲んだ。
 二人ともバツイチ。今時、めずらしくもないだろうけど。
「草子なんか、十年もしてから別れたのよ。なんか中途半端」
「ゆかりさんは二年でしょ。早過ぎ」
二人の間では頻出する話題らしく、掛け合いのようである。
 新しく作ったお湯割りをコチンとぶつけて、二人とも一口飲んだ。ふぅ、と息を吐き草子さんは「何事も十年続ければ大したもんだ」と妙にかしこまった口調で言い「モズク」と短く注文した。「……と、父が申しておりました」その後、小さくつぶやいた。
 なんとなく「今の仕事も十年たつなぁ」と独り言のように言うと、三人に驚かれた。
「じゃぁ、三十二,三?老けて見えるわねぇ。十も下」と、ゆかりさん。
「私なんか年上かと思ってました」と、こちらは草子さん。
「そう言えば、この前沢野さんが草子さんのこと『枯れ木』みたいだって……」と、宮さん。
「『枯れ木』じゃない『ススキ』って言ったんですよ」
「あらステキ」
「そういう返事でいいの?」
 実際、草子さんには化粧っ気がまったくなく、よく見れば顔には相応の年輪が刻まれてはいるけれど、洗いざらしのTシャツのような風体は、それも含めて「枯れた魅力」といったものがある。そのようなことを考えたが、口に出すのはやめにして、ロックグラスを持ち上げると空いていた。もう何杯目か分からない芋焼酎ロックを作りながら、イカンイカンと思い始める。きっと目が覚めたら、翌朝で自分の部屋で寝ているのだ……と、今考えていることも覚えていない。
 芋焼酎ロックをスイスイと作り、スイスイと飲む。とてもいい気分。このいい気分を覚えていないのもさびしい。こういう気分は、きっと酒を飲んでいる時間の中にしか存在しないのだ、などと思考が迷走を始める。
 ゆかりさんが、あははと笑っている。草子さんも、ふふふと笑っている。「いいんじゃないの」と宮さんが相槌をうつ。うんうん、そうだねそれがいい……
(続)


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はてみ

「こういう気分は、きっと酒を飲んでいる時間の中にしか存在しないのだ」、うんうん、この部分共感します。お酒は弱いので私の場合一瞬ですが(^^)、お酒のとき以外にも当てはまりますよね。
by はてみ (2006-01-28 10:09) 

sakamono

>はてみさん
お、そう思っていただけましたか。お酒の時以外でもあてはまると思います(思っています)(^.^)。と、いうつもりで書きました。
>ぽちくんさん
nice!ありがとうございます(^.^)。
by sakamono (2006-01-28 21:25) 

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